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東京地方裁判所 平成6年(ワ)24024号 判決 1995年12月01日

主文

一  被告が、東洋郵船株式会社に対する東京法務局所属公証人片倉千弘作成平成六年第六六号の執行力ある公正証書正本に基づき、平成六年八月五日、第三債務者株式会社箱根カントリー倶楽部に対してなした、別紙ゴルフ会員権(株券)目録記載のゴルフ会員権に対する東京地方裁判所平成六年(ル)第五三一五号ゴルフ会員権差押命令に基づく強制執行は、これを許さない。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

理由

一  請求原因1のうち、被告が、東京地方裁判所平成六年(ル)第五三一五号ゴルフ会員権差押命令申立事件において、債務者を東洋郵船、第三債務者を箱根カントリーとする強制執行として、東京法務局所属公証人片倉千弘作成平成六年第六六号の執行力ある公正証書正本に基づき、平成六年八月五日、東洋郵船所有の箱根カントリーのゴルフ会員権六口に対する差押をしたことは当事者間に争いがない。

そして、《証拠略》によれば、東洋郵船が所有する箱根カントリーのゴルフ会員権は全部で六口であることが認められるので、被告はそのすべてを差し押さえたことになり、本件会員権がその中に含まれることは明らかである。

二  《証拠略》によれば、次の事実を認めることができる。

1  東洋郵船は、平成六年四月一二日、原告との間で、本件会員権について次のとおりの根譲渡担保設定契約を締結した。

(一)  東洋郵船は、原告に対して現在及び将来負担する一切の債務を担保するため、本件会員権を原告に譲渡する。

(二)  東洋郵船は引き続き箱根カントリー倶楽部ゴルフ場を利用することができるが、会員として現在又は将来要求される年会費納入、その他の義務はすべて確実に履行する。

(三)  東洋郵船は、本件会員権を他に処分し、もしくはその預託金返還請求権を行使することはしない。

(四)  東洋郵船が原告に対する債務を期限に履行しない場合には、原告は、東洋郵船に事前に知らせることなく、本件会員権を、一般に適当と認められる方法、時期、価格で他に売却処分し、または、本件会員権を、一般に適当と認められる時期、価格で評価して原告名義とし、その処分代金もしくは評価額をもって、法定の順序にかかわらず、債務の弁済に充当することができる。右のほか、原告は、任意の方法により預託金の返還を受け、その返還金をもって、法定の順序にかかわらず、債務の弁済に充当することもできる。

2  東洋郵船は、右契約締結に際し、原告に対し、別紙ゴルフ会員権(株券)目録記載の箱根カントリーの株券五枚、それぞれが日付白地の、譲受人欄白地の株式譲渡承認請求書、退会届、委任状、印鑑証明書等、会員権譲渡に必要な一切の書類を交付した。

3  東洋郵船は、箱根カントリーに対し、同年四月一三日付確定日付のある内容証明郵便をもって、本件会員権を原告に担保として譲渡した旨の通知をし、右通知は同月一四日に箱根カントリーに到達した。

三  そこで、本件会員権の譲渡担保の効力及び第三者に対する対抗要件について検討する。

《証拠略》によれば、次の事実を認めることができる。

1  箱根カントリー倶楽部規約及び同細則によると、「箱根カントリー倶楽部」の正会員は箱根カントリーの株主であることを要し、会員は、箱根カントリー所有のゴルフ場施設を優先的に利用しうるほか、退会時における入会金払戻請求権等の権利を有し、入会金、年会費の納入等の義務を負担する。既存の会員に替わって入会するためには、会員の紹介をもって入会を申し込み、理事会の承認を得ることが必要である。

2  原告は、金銭の貸付等を目的とする会社であるが、東洋郵船から本件譲渡担保の設定を受けるについて、本件会員権が株主会員制であるため、他の株主会員制ゴルフ会員権の譲渡担保の場合と同様、譲渡担保設定証書を作成するほか、前記のとおり、本件会員権と不可分一体のものとして箱根カントリーの株券の差入れを受け、会員権譲渡に必要な一切の書類の交付を受けた。

3  原告では、ゴルフ会員権を譲渡担保に取った場合、これを換価するには、これまでゴルフ会員権業者に持ち込み市場で売却してもらっており、原告に対する名義書換は行っておらず、本件会員権についても原告に対する名義書換はしていない。

右認定の事実によると、「箱根カントリー倶楽部」はいわゆる株主会員制を採っており、その会員権の内容は、ゴルフ場施設の優先的利用権、入会金払戻請求権等の権利及び入会金、年会費の納入等の義務を包括するものであって、箱根カントリーに対する権利義務の総体たる契約関係上の地位とみることができる。

そして、右にみた株主会員制ゴルフ会員権の取引の実情、譲渡された会員権はゴルフクラブ理事会等の承認を得る前でもそれ自体で財産的価値を有し、譲受人は右承認を得ないまま株券とともに会員権を転売して資本の回収をはかることができることのほか、株券の交付によって二重譲渡が防止されることを考慮すると、株主会員制ゴルフ会員権については、譲渡担保権者がその売却等の処分をするためにあらかじめ自己に名義変更を受けておく必要があるとはいえず、株券の交付を受けることをもって足りると解するのが相当である。

しかしながら、株券自体が財産的価値を有するとしても、箱根カントリーの株主になったからといって、それは「箱根カントリー倶楽部」の会員たる資格を有することになったにすぎず、入会するとは限らないことからすると、株券は会員としての地位そのものを表象するものとはいえないというべきである。

したがって、株主会員制ゴルフ会員権について、会員権の譲渡を譲渡当事者以外の第三者に対抗するには、株券の交付のほか、その譲渡に入会金払戻請求権等の指名債権の譲渡を伴うことに鑑み、指名債権の譲渡の場合に準じて、確定日付ある証書をもってする通知又は承諾を要し、かつ、それらをもって足りると解するのが相当である。(なお、《証拠略》によると、箱根カントリーは、前記差押命令申立事件において、執行裁判所に対し、同社は株主会員制をとっており、本件については記名額面株式一株券(譲渡制限あり)六枚が発行され右株券を東洋郵船が占有しているので、ゴルフ会員権に対する差押手続は民事執行法一二二条によることが必要と思料されるとし、右差押命令は入会金預託金の部分についてのみ有効と解する旨の陳述をしていることが認められる)。

本件では、前述したとおり、本件会員権にかかる株券が交付され、譲渡人の確定日付ある通知が、被告の差押に先立つ平成六年四月一三日付で行われ、同通知は同月一四日に箱根カントリーに到達している。したがって、原告は本件会員権の根譲渡担保権をもって、第三者である被告に対抗できることとなる。

この点に関する被告の主張は採用することができない。

四  以上の次第で、原告の請求は理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 森高重久)

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